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2009年11月21日 (土)

ルールブックが書店で買える喜び

Yaesubc今日、印刷所に冬の新刊の入稿に行く途中、東京の八重洲ブックセンターに寄りました。
今月はまだRole&Rollを買っていなかったので、まさか八重洲ブックセンターのような大人向けの書店で置いてあるとは思いませんでしたが、なんと6階に2冊も並んでいて驚きました。
早速購入してレシートを見たら、「児童書」ってあるじゃないですか。
どうやら、八重洲ブックセンターでは、ゲーム関連の本はみんな「児童書」扱いされているみたいです。


そこで思い出したことがありました。
TRPGのルールブックは、今でこそ「ゲーム攻略本」の扱いで書店に並ぶ機会も多いですが、それ以前はどうだったのか?ということを知る人も年々減ってきています(というか、新しい人達が入ってきているからですが)。
というわけで、またも昔語りになってしまいますが、TRPGの流通の歴史をまとめてみます。



TRPGのルールセットは当初、シミュレーションゲームやボードゲームと同じ、「アダルトホビー」の流通経路を通っていました。
平たく言えば「玩具」と同じだったのです。
代表例として、クラシックD&Dの「ベーシックセット」(いわゆる赤箱)は、文字通り赤い箱の中に、ルールブック2つとサイコロ一式が入ったセットでした。
これが、おもちゃの流通経路を通り、ホビーショップに卸されていました。
今から考えれば信じられないかもしれませんが、20年前はシミュレーションやボードゲームを扱っている専門店でしかTRPGを買えなかったのです。
たとえば、私の20年前と言えば高校生ですが、渋谷パルコの6Fにあった「MARK」というホビーショップに足しげく通い、ルールブックやサイコロ、ミニチュア、ゲーム雑誌などを買い集めたものでした。
(ちなみにこの店、現在は「ポストホビー渋谷店」と名を変え、去年あたりまでTRPGを扱っていましたが、現在はミニカーの専門店になっています。あそこでD&D3版も各種買ってたんだけどなぁ。)
当時は新宿のイエローサブマリン(現在の新宿ゲームショップ)も既にありましたので、ちょっと足を伸ばして買いにいくというのもありでしたが、とにかく専門店でなければTRPGを買えなかったのです。



こうした状況を打破したのが、文庫版のルールブックでした。たとえば「T&T」や「混沌の渦」など、社会思想社から出た文庫のルールブックは、それまで専門店でしか買えなかったTRPGのシステムを、書店でも注文できるようにしたということが大きな功績でした。サイコロは別売りでも、文庫本サイズで場所を取らず、何より書籍流通なので安い、というのが大きな利点でした。
そして1989年、「ソード・ワールドRPG」(現在の1.0)の基本ルールブックが文庫で発売されると、メディアミックス戦略も奏功して爆発的なヒットとなり、「文庫ルールブック」の地位は確固たるものになりました。
ソードワールド1.0は1冊に基本的なルールとデータが入って、シナリオやサイコロは付いていませんでしたが560円(当時)という低価格が好評で、それまでルールセットひとつ4000円5000円していたものを買っていた人も、高くて買えなかった人にも天恵をもたらしました。
ソードワールド1.0は、続く追加ルール集も、リプレイも、シナリオ集も、ノベルも、とにかく関連商品が(完全版ルールブックが出るまで)ほとんど全部文庫で出たというのが凄いところで、書籍流通のしやすさと低価格が若年層のプレイヤーを中心に大きな支持を受け、有名なシステムにしていった要因のひとつとして挙げることができます。



しかし、文庫版ルールブックはあるひとつの問題を持っています。
それは、「情報量の限界」ということです。
文庫サイズである以上、ひとつのページに載せられる情報量(ルールやデータなど)は限られてきます。
フォントを小さくして詰め込もうとすると、読みにくさが目立ってしまいます。
情報量を多くすると、どうしてもページが増えてしまい、分冊という形を取らざるを得なくなるのです。
昔の「ウォーハンマーRPG」は、「3つの分冊ルールブックを並べると立方体になる」なんて言われたりもしました。
今手元にある「アリアンロッドRPG」の基本ルールブックも350ページほどあります。
この問題は、現在のソードワールド2.0やダブルクロス3rdでも解決されていません。



そこで登場したのが、A4サイズやB5サイズのいわゆる「ムック」と呼ばれるサイズのルールブックです。
このサイズでは、情報量を無理なくまとめることができ、ページ数を増やしても読む人の負担が増えにくいという利点があります。
1990年頃からぽつぽつと出始めた形式で、角川書店の「コンプコレクション」として出たものもありますが(「ロードス島戦記コンパニオン」「ダブルムーン伝説TRPG」「フォーチュン・クエストコンパニオン」など)、本格的にムックでルールブックを出し始めたのは1994年頃のアスペクト(現在のエンターブレイン)がメインだったと思います(手元に資料がないので、正確な年号やどんなタイトルだったかは分かりません。ご存知の方はご教示ください)。



この「ムックのTRPG」ですが、流通側でも最初は何ジャンルの本か分からず、とりあえずコンピューター関連のところに並んでいたこともあったとか。
現在のように「ゲーム攻略本」の扱いになっているのは今から10年以内のことなのだそうです。
しかし、実際の書店を見ればお分かりになるかと思いますが、(本当の)ゲームの攻略本というのは子供の手でも持ちやすいようにA5サイズが主流で、書店側もA5サイズの攻略本を中心に棚を揃えています。
ムックのTRPG本は、ゲームの画集やビジュアルブックと言った、「大型本」を揃えている書店の棚の中に埋もれていることも珍しくありません。
ムックのTRPGルールブックは安くて3000円、高くて6000円に近い価格ですが、本としての扱いの良さと読みやすさ、使いやすさから、現在の判型の主流になっているのは皆様もご存知の通りです。



さらに、2002年に黒船が訪れます。
「D&D」第3版の日本語版です。
D&D第3版はムックよりも大きいA4サイズ、しかも300ページを超える全てがフルカラー印刷という、それまでの日本のルールブックの常識を覆すボリュームでやってきました。
しかも、ごく一部を除いたサプリメントも全ページフルカラーで、まさに大型本のスペースを生かした美しいビジュアルが読む人を驚かせました(ただし、第3版のシナリオはモノクロ本文のものの方が多いです。フルカラーなのは「赤き手は滅びのしるし」くらい)。
英語版のD&Dを知らない人の多くからは、「これが本場のルールブックなのか」と驚嘆の声が上がり、知っている人の多くからも、日本語版の翻訳の素晴らしさと完成度の高さに驚嘆の声が上がりました。
D&D第3版の日本語版は、国内のTRPG関係者に多大な影響を与える結果を残しました(その後、日本国内のルールブックでも、「無限のファンタジア」と「シルバーレインRPG」で全ページフルカラーが実現しています)。



しかし、そんな豪勢なD&Dにも弱点があります。
ひとつは、価格の高さ。
先に述べた通り、ムックのルールブックは3000円からの価格帯となっていますが(「無限のファンタジア」はフルカラーで3000円!)、D&Dの基本ルールブックは3分冊で5800円からの値段となっており、これはかつてのクラシックD&Dのボックスセットを超える高額商品となっています。
英語版のプレイヤーズ・ハンドブックは$29.95ですので、今日の為替レートとすると、日本語版PHB1冊の値段で英語版が2冊買える計算です。
この理由として、日本語版は印刷全てを国内の工場で行っていること(そして日本の紙代や印刷費が世界と比して高額であること)、Wizards社に払う翻訳権料やマージン、翻訳にかかる費用や流通の費用などがかかっているのが原因です。
もうひとつの弱点は流通が弱いことです。
D&Dのルールブック各種にはISBNコードが割り振られていることから、一般的には「書籍」として認識されています。
一般的には、書店に卸された書籍は、売れなければ流通経路で返本ができる制度が設けられています。
ところが、D&D(やホビージャパン版の「ウォーハンマーRPG」)にはこの制度が適用されていません。
現在のD&Dは、かつてのクラシックD&Dと同様に、玩具の流通経路を通っているのです。
そのため、D&D関連商品を買うと付いてくる店向けの注文票には、小さく「※買切商品となります」と書かれています。
つまり、注文しても売れなかったから返本するということができないのです。
なぜ書籍流通ではなく玩具流通なのかは知りませんが、私が察するに、高額商品であるが故の返本のリスクを避けるためだと考えられます。
(昔、ホビージャパンは1993年にウォー・シミュレーションの本「無血戦争」5800円を出して大失敗しました。また、1997年には漫画雑誌「コミックジャパン」を創刊しましたが、創刊後13日で休刊が決定した過去を持ちます。その後、同名の漫画雑誌が別会社から出ていることを考えると事実上の廃刊。)
しかし、D&Dの現状はご存知の通りで、高額商品にも関わらず毎月関連商品が出続け、プレイヤーの年齢層が高いこともあって平均以上の顧客の獲得に成功し、今やホビージャパンの主力商品に躍り出ています。
弱いと言われていた流通の問題も、Amazonなどのネットショップでの売り上げが有効に機能していることもあり、改善の兆候が続いています。
(昔、自分はネットショップで在庫が無かった「バトルテック」を、わざわざ仙台のホビーショップに電話して取り寄せてもらったことがありました。懐かしい思い出です。)
D&Dは日本のTRPGの歴史を3度塗り変えましたが、流通面も塗り替えることができるでしょうか?



話を文庫ゲームに戻します。
2008年になって、ムックのTRPGルールブックが隆盛であるにも関わらず、ソード・ワールド2.0は3分冊の文庫として世に放たれました。
2009年にはダブルクロス3rdも2分冊の文庫として発売されました。
わざわざ読みにくさ、使いにくさのリスクを負ってまで、なぜ今文庫、それも分冊ルールブックなのでしょうか?
特に、ダブルクロスは1st,2ndともにムックのルールブックだったのに、です。
私は、この最大の要因は「流通」であると考えます。
富士見書房(=角川グループパブリッシング)の強力な販売網を駆使して、少しでも安く、一人でも多くの人にTRPGのルールブックを届けたい、という意志を感じるのです。
かつて、ソード・ワールド1.0やアリアンロッドがそうして成功したように。
Dscf0333
この画像のように、TRPGのルールブックを「ライトノベル」の一種として扱う書店すらあります。(嘘だと思うなら溝の口の文教堂本店3Fに行ってみて下さい。文庫だけじゃなくてムックのルールブックもここに並んでいます)。
TRPGのプレイ人口を増やそうとするパブリッシャー側の努力は、今現在も続いているのです。



TRPGのルールブックが書店で買える。
今となっては当たり前かもしれませんが、そうなった背景と努力を考えてみるのもいいかもしれません。

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